奏法・響き

平行移動させる

こんにちは。

ここのところで、新しく音階が出てきた生徒さんがいたり、「指をくぐらせる」音型が曲の中に出てきた生徒さんがいたりしたので、その話を書きたいと思います。

音階が分かりやすいので、それを例にとりますね。

ハ長調の音階を右手で弾く時、ドレミで指を123と使って、ファの時にまた1の指を使います。

この時、親指を「くぐらせ」ます。

一般的には手首を少し外にひねるような形で中指の下を親指が通る、という感じでしょうか。

私もずっとそう弾いてきました。

 

大学に入ったとき、ロシア奏法の流れをくむ恩師に「そんなことしていたら、間に合わないでしょう。」と言われた時にはびっくりしました。

「そのままでいいのよ。確かにゆっくり弾けばちょっとは間があいて聞こえるかもしれないけど、響きがつながれば良いのだし、実際の曲の中では全く問題ない。」

確かに、恩師の弾き方だと、手首をひねる動きがないので、移動がスムーズです。

 

ただその時には、私には指・手首・ひじ・腕の使い方の全体像が見えていなかったので、しっくり来ない部分がありました。

今は、分かります。

親指の使い方が最大のポイントです。

親指は人間の手の場合、他の4本の指と向かい合うようについています。

それをその状態のまま、ピアノでも使っていきます。

ですから、一般的な奏法とは、親指の向きは全く違いますし、弾く時に鍵盤に触れるポイントも違います。

 

その状態で、ドレミが終わったら、ファの上に親指を移動させます。

他の指や手首もそのまま右に移動させます。

「くぐらせる」のではなく、そのまま平行移動。

曲の中で「響き」がつながって、音楽的に弾ければ良い、そのための音階です。

音階のための音階ではないのです。

 

あまりにも親指の使い方が違うので、最初はかなりとまどいました。

今は慣れてきて、とても合理的なので、以前よりもずっとスムーズに音階が弾けるようになりました。

「くぐらせる」のではなく「平行移動」です。

2018.08.07

無意識でできるようになるまで

こんにちは。

昨日は御茶ノ水にレッスンに行ってきました。

レッスン室のピアノの位置が移動していて、新鮮な感じがしました。

私が行き始めた当初はこの向きだったように思います。

ピアノの向きが変わったことで、響きの上がる方向が変わり、また違う印象になっていました。

 

「身体の軸」を一生懸命考えていったわけですが、その方向性は正しかったようです。

「もっと身体とピアノの間の空間を自由に使う」ことをご指導いただきました。

本的な腕・手の基本の位置はもっとずっと上にあるイメージ。

そこから、支えを意識しつつ鍵盤を弾く。

 

基本の位置を上にすると、ミスタッチも怖いし、支えを意識しないと「つっついた音」が出てしまいます。

「もっと虫様筋を使って支えたほうが響きが出る」ということで、先生が弾いてくれましたが、確かに上から弾いています。

自由に、自由に。

腕の重みをもっと使う。

虫様筋を意識する。

 

やっているうちにふと「意識せずに無意識でできるようになるのが大切だよね。」と言われ、確かにその通りと思います。

ただ、意識せずにいるとつっついた音が出てしまう。

まずは意識的にやっていくしかない、ということで、無意識でできるようになるまでにはまだ少し時間がかかりそうです。

虫様筋、手の内側の支え…と思って弾いているうちに、「腕の下側をもっと使えると良いですね。」

腕の下側…そういえば虫様筋に意識を持っていったので、腕の下側を忘れていました。

腕の下側にも意識をもっていくと、確かに、音の響きがずいぶん変わりました。

 

「本番は音楽に集中した状態ですよね。ですから、無意識で弾けるようになることが大切です。」

確かに、腕のここ、指のここ…などということを考えながら弾いていると音楽はどこかへ行ってしまいます。

今は、意識しつつ弾いていますが、それが自然にできる状態になるまで、身体にしみこむまで、練習していきましょう。

2018.08.06

ピアノを弾くときの身体の軸について考える

こんにちは。

ここのところ、「身体の軸」を意識してピアノを弾いています。

同時に腕のイメージも「肩胛骨から」ということを意識するようにしています。

 

肩胛骨から腕を動かすと、腕の動きが大きくなりました。

そのために、ピアノと椅子の間の距離を可能な限りあけることが必要になります。

その時に「身体の軸」の感覚が必要になってくるということが分かってきました。

今まで私の感覚では、「腕に重みをかける」というのは「腕に力を入れる」ということに近かったように思います。

ただ、そうすると腕に力が入る分、動きが遅くなります。

 

股関節に意識を置いて、椅子に浅く腰掛ける。

そのままでは椅子から落ちてしまうので、身体の傾きを押さえるために「腹筋」を使う。

ただ、昨日もいろいろ試行錯誤していて、腹筋と言うよりはおへその下、腹式呼吸などでよく言われる「丹田」の辺りに意識を置いたほうが良いように思います。

そのほうが、下向きの力を感じやすいのと、腕が動かしやすく感じます。

こういう身体感覚は個人差がありますので、私がそう感じた、ということなのですが。

 

先日ご紹介したボディ・マッピングの本では「身体の真ん中は股関節である」と書いてありました。

そこでの解説によると、西洋の感覚では、洋服の上下を分けるウェスト部分を身体の真ん中と意識する人が多いようです。

日本の感覚とは少し違うかもしれません。

私の場合、「股関節」と言ったときに腰の骨のあたりにも意識がいきます。

その時、ちょうど腰の骨の反対側に「丹田」があるので、身体のお腹側、背中側セットでそこを感じていく、ということなのかもしれません。

 

腕が動かしやすくなった感覚がある分、交差させて弾く部分は今までよりもずっと弾きやすくなりました。

また、「小指を弾く時には親指側を上げる」ということを言われていたのですが、支点が上になったことと腕に余分な力が入らなくなったこととで、その動きもしやすくなりました。

このあたり、まだまだ研究途中ですが、いろいろ試しつつ「より美しい響き」を目指していきます。

2018.07.24

一音一音と横の流れと

こんにちは。

暑いと思ったら、昨日は熊谷で全国最高気温を更新したのですね。

この辺りも、相当な高温だったことでしょう。

熱中症には十分ご注意下さい。

 

御茶ノ水にレッスンに行ってきました。

前回のレッスンから1週間足らず。

私の場合、ある意味「真面目」なのですが、つい一つのことを追求し始めると全体がおろそかになる傾向があります。

昨日も、それが出てしまいました。

 

前回のレッスンは、「身体の軸」「より音を響かせるための手の使い方」を中心にみていただきました。

ついつい、意識がそちらに向いて練習してしまっていました。

その結果、先生からは「一つ一つの音は良いのだけれど、何だか一音一音になっていて、音楽の横の流れが見えてこない」というご指導をいただきました。

確かに。

もちろん、自分なりには弾いていたつもりなのですが、一つの音を響かせる>>>音楽の流れ、となってしまっていたのですね。

 

ということで、音楽の流れに今度は意識をしながら、手の使い方を再検討です。

フレーズごとに、どう手を使っていけば、全体として一つの流れに聞こえるのか。

音の一つ一つの響きに美しさを持たせながら、均一ではなく全体として生きている感じに聞こえるように。

…とやっていると、

「ひじで支えています。」(=音の響きが薄くなります)

「親指の使い方が上から下になっています。」(=音が響かなくなります)

「オクターブを押さえこんでいます」(=これも響きが少なくなります)

本当に難しい!

だいぶ粘って、粘って、ようやくある程度「こんな感じかな?」というのをつかんで帰ってきました。

 

次回のレッスンまでに、音の響きと音楽の流れ、この両方を何とかしていくことが課題です。

音型も複雑なので、またゆっくりの練習を何度もして、確認していこう、と思っています。

2018.06.28

触れるだけで音が出る

こんにちは。

写真は、川島町にある平成の森公園の古代蓮の花です。

ここもとても良い場所です。もうしばらくは、花が楽しめそうです。

 

先日のレッスンの時、師匠のピアノを弾いた時、

「なんて反応の良いピアノだろう。」と、ようやくそれを気持ち良く感じることができました。

 

今までも反応の良さはよく分かっていました。

スタインウェイのフルコン。

触るだけで音が出ます。

最初の頃は触るだけで音が出るピアノ、ということが信じられませんでした。

でも、実際に軽く触れるだけで音が出ます。

 

ただ、あまりにも反応が良すぎて、コントロールが難しい、という印象のほうをより強く感じていました。

例えば、ちょっとの違いでいきなり大きな音がでてしまう。

少し深いところを弾くと音が詰まってしまう。

そのたびに、「こう弾きたくないのに…」という思いだったのです。

今回、フォーレのノクターンを弾いたとき、こうしたいと感じたタッチ、ねらった深さと、出て来た音がぴったりと合っていたのです。

そのニュアンスは、私のピアノよりもはるかに繊細で、うれしくなりました。

 

一つは、手の内側の筋肉がしっかりついてきて、細かいコントロールが可能になったこと。

もう一つは、私のピアノの調整がよくて、かなり繊細な弾き分けができるようになっていること。

この2つが原因だと思っています。

 

手の筋トレもずいぶんやりました。

地道にやっていると、確かに違います。

見ていると、師匠も暇があると必ず指を動かしています。

師匠のところでレッスンをしている先生方も、話しながら指を動かしているそうです。

これも終わりがないことなのですね。

 

私のピアノの調整、

ずいぶん長い時間をかけて、細かい部分を磨いて、動きやすくしていただいています。

おかげで、今回の感覚がつかめるようになりました。

 

良い状態に調整されたピアノ。

それを最大限生かすための手、指の状態、使い方。

その結果出てくる、様々な響き

そしてその響きをコントロールして音楽を作っていくこと。

この奏法ならではの楽しさがあります。

ドアノブを回すように

こんにちは。

昨日のレッスンで、いよいよ新しい教本に入った小学校1年生の生徒さん。

今までは、2と3の指でのノンレガートでしたが、他の指も使って弾いていきます。

昨日は、1と2の指を使いました。

 

ロシアの奏法では、指だけで弾くのではなく、手首を旋回させる動きを使います。

その旋回の方向も左右の回転と、音型によって鍵盤の奥に向かう方向を組み合わせていくのですが、まずは左右から。

初めの頃、私も「ドアノブを回すように」とよく言われました。

ロシアの子どもさんがピアノを弾いている動画を見ると、確かにかなり旋回させている様子が見えます。

モスクワ音楽院に留学した経験のある方にお話を伺ったところ、「1年間、メンデルスゾーンの無言歌集で旋回ばっかりやっていた。」とのことでしたから、相当、徹底的にやる基本の動きです。

 

大人だと、ある程度指の力で鍵盤を押していくことができますが、お子さんの場合は、それをやろうとすると、手首が下がり、弾いていない指が鍵盤から落ちてしまいます。

その状態で下に向かって鍵盤に力をかけて弾くと、確かに音は出ますが、先の段階でまた手の形を修正することになります。

また、出てくる音も、つまった音になってしまいます。

弾かない指も常に鍵盤の上にのせておく意識をもってほしい、でも、きちんと音を鳴らしてほしい。

そのために、手首の旋回を肩から腕の重みを指にのせて弾くのは、とても合理的です。

 

まだ、始めたばかりなので、動きもぎこちないところはありますが、私の話をよく聞いて一生懸命練習しました。

そして、何回か練習するうちに、コツがつかめてきました。

同時に、音色も少しずつ変わって響く音になってきました。

弾き方で音の質も変わっていきます。

 

どんどん成長する生徒さん。また次回が楽しみです。

音の質を聞き分けていく

こんにちは。

音の響きを聞く。

自分が今出している音の質を聞き分ける。

簡単なようで意外に難しい。

 

私自身、大学時代に、「響きを聞いて。」とさんざん言われましたが、はっきりと理解できてはいませんでした。

ただ、「こんな感じなのかな?」というイメージが多少は持てたので、それが改めてロシアピアニズムを学ぼうと決めたときに、確かに生きてきました。

 

レッスンをしていて、お子さんは、理屈ではなくて感覚で弾く部分が大きいので、すっと入っていくような気がしています。

先日のレッスンでも、幼稚園の年長の生徒さん。

最初は鍵盤の下まで押さえて押さえて、頑張って弾いていました。

小さいお子さんにとって、ピアノの鍵盤はとても大変なものなのですよね。

ですから、「音を出すぞ」という気負いがあって、とても頑張る傾向があります。

 

もっと力を抜こうね。

手をぶらぶらさせて。

手をこう置いて。

と話していくうちに、音が変わってきました。

 

さらに、私が一緒に弾くと、その音の響きの違いを感じるのでしょう、さらに音が変わってきました。

だんだん「抜けた音」になってきました。

30分のレッスンの間に、ずいぶん音の質が変化したのです。

 

ついつい、「音符が読めること」「楽譜に書いてあることがわかって、音が出せること」に意識が向きがちですが、その出している音の質、音そのものが歌う、そして音楽を作っていける。

生徒さん達が、その部分にもしっかり意識を向けられるように、そんな思いで指導しています。

2018.05.28

多彩なピアノの音色に感動する

こんにちは。

昨日は、すみだトリフォニーホールに行ってきました。

このコンサートでブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏するピアニスト、川村文雄さんは、私の師事する大野先生の一番弟子。

今までソロの演奏は伺ったことがあるのですが、オーケストラとの競演を伺える機会はなかなかないので、思い切って出かけてきました。

 

行く前にあらためていくつかの演奏を聴いてみたのですが、この曲、ピアノ協奏曲でありながら、いわゆるピアノ協奏曲とは違う。

交響曲の感じに近い。

大野先生も「あの曲、本当に難しいんですよ。」とおっしゃっていましたが、いろいろな意味で確かにものすごく難しいのだろうと思いました。

 

実際の演奏では、まずなんという音の美しさ!濁りのない響きの美しさ!

まっすぐこちらの心にまで響きが届いてきます。

ああ、この奏法を極めていくと、こういう響きになるのだな、という思いがしました。

そしてその響きが音楽とともに多彩に変化していきます。

 

きらっと光る音。

柔らかい音。

オーケストラと融け合う音。

オーケストラの音から抜けて届いてくる音。

 

こんなにいろいろな音が出せるなんて。

弾く人によってこれほど違うのだな、と改めて思いました。

同時に、ピアノという楽器の魅力も再認識しました。

やっぱりピアノは素晴らしい。

 

2階席だったのですが、ちょうど手がよく見える位置にいたので、手や身体の使い方もとても勉強になりました。

無駄な動きがない。

ほんの一瞬のせて、でもその後いかに上手く力を移動させているか。

身体の軸はどうなっているか。

 

ブラームスの音楽に浸り、また次への勉強のエネルギーをたくさんいただけた素晴らしい時間でした。

2018.04.30

響きを楽しむ

こんにちは。

「響き」でつなぐ。

「響き」でレガートを作る。

私たちロシアピアニズムを学ぶ者は、「響き」という言葉をたくさん使いますし、毎日の練習の中でもどのように「響かせていくか」を考えています。

 

この「響き」、目に見えないだけに、それが分かった、という感覚を持つまでに少し時間がかかるのですね。

ただ、分かればとても面白いものです。

私の今ついている先生の音の響きは、暖かく、厚みがあり、その部屋の空間全体に響きでいっぱいになる、という感じです。

浅いところで鳴らすとふわふわした感じ。

ピアノの上の方で響きを混ぜると、本当に微妙な色合いが出てきます。

鍵盤の下まで「しっかりと」弾いた音を混ぜようとすると濁るのですが、響きを混ぜると濁りません。

 

以前ブラームスのインテルメッツォ(Op.118-2)を弾いているときに、中間部で「響きを混ぜても面白いかもしれない。」と言って、先生が弾いてくれたことがありました。

先生が弾くと響きが混ざり、確かに「面白い」のですが、今から4年ほど前のその当時、残念なことに私が弾くと混ざらないで濁ってしまいました。

ドビュッシーなども、この響きを混ぜながら弾くととても面白いものに仕上がっていきます。

 

先日みえた調律師さんが、「以前は響きを高く上げよう、という気持ちで技術を使って…という意識がありましたが、最近はピアノ本来の持つ力を最大限発揮できるように整えていこう、という意識になりました。」とおっしゃって調整してくれました。

その方の調律も日々進化を遂げていて、レッスン室のピアノもとても浅いところから深いところまで、いろいろな響きが出るように調整してくださったので、この連休中は、そのさまざまな響きと遊んでみたいと思っています。

2018.04.24

親指の使い方

こんにちは。

昨日は御茶ノ水にレッスンに行ってきました。

帰りに寄った神田明神、本殿わきの木々の緑もすっかり濃くなっていました。

 

デユポールを含め、2年半以上モーツァルトに絞ってレッスンを受けてきました。

一区切りついたので、少し違うものにもチャレンジしてみたいと思い始めていたところです。

ですから、今回はモーツァルトのソナタも区切りになるように、かなり練習していきました。

 

ところが、先生のピアノで弾くと、何か安定しない。

今回はかなり練習して大丈夫なはずだったのに、なぜか音が抜けるところが出てきてしまいます。

あれ、どうしてだろう?

 

「親指が寝ているからです。」

先生の指摘は明快でした。

自分では立てているつもりだった、そして寝かせる癖はほぼ出なくなったと思っていた、親指の使い方。

残念ながらまた出てしまいました。

 

一般的な奏法と大きく違う手の使い方、その特徴の一つが親指の使い方にあります。

親指は物をつかむために、他の4本の指とは違う向きに動くようになっています。

今の奏法はその動きを生かすような、合理的な使い方をしています。

でも、その使い方がイメージできるようになるまで、私はとても時間がかかりました。

その後、頭では理解できたと思い、最近はだいぶよくなっていたのですが、やはり音型によって以前の習慣が出てしまうということが分かりました。

先生の弾いてくださる手の動きをよくよく観察してきました。

 

 

モーツァルトはとりあえず一区切りですが、また新しい曲で、手の動きや響きの混ぜ方など、さらに学びを深め、レッスンに生かしていきますね。